阪神淡路大震災 20 周年事業

加川広重 巨大絵画が繋ぐ東北と神戸 2015

森口ゆたか 光のインスタレーション「光の刻」 

日時:1月10日(土)〜18日(日)
会場:ワークショップスペース2(2F)
※10日(土)17:30〜 作家トーク

光のインスタレーション「光の刻」
この作品に現れる手は、母となった私の友人と彼女の4ヶ月になる赤ん坊の手だ。今まさに触れ合わんとする大小二つの手は、その前に垂らされた裸電球の点滅によって、ゆっくりと立ち現れては消えることを繰り返す。この作品が出来上がる数ヶ月前に、私は母を亡くした。年老いた母が病を得、心身共に衰え、知的好奇心も持ち前の社交性もすっかり失い、ただただベッドの上で死の恐怖に怯える姿を見続けるのは、娘の私にとっては、辛い数年間だった。彼女の臨終の際に私はベッドサイドに付き添っていたが、血中の酸素濃度が低くなり、あの世に旅立った時には悲しみよりもまず先に、正直これで母もやっと楽になれたという安堵感に包まれた。かと言って母を喪った哀しみは、中年にもなる私でさえ、心に大きな穴を空ける。ましてや思いもかけぬ災害によって突然肉親や友人を奪われた人たちの驚きや哀しみ、憤り、喪失感は如何ばかりだろう。勿論感情面ばかりではなく、災害は多くの人々の人生を大きく覆す。話を作品に戻そう。母を亡くして喪失感の只中にいた私を唯一救ってくれたのが、友人が子どもを産んだことだった。そこに「命の連鎖」を見た。母という個人は亡くなったが、また新しい命が芽生えた。命そのものは決して途切れることなく連綿と続いてゆくことを肌で感じ、それを作品にした。こんなにシンプルなことを、こんなにシンプルに伝えた作品を初めて作った。阪神大震災の後、アーティストとして何もできず無力感に苛まれたこの私が、今東北の人々にささやかな何かを伝えることができるとしたら、神様にお礼を言いたい。

森口 ゆたか
美術家、NPO法人アーツプロジェクト理事長、京都造形芸術大学客員教授。1980年代半ばより関西を中心とする各地の画廊や美術館で作品を発表する。2011年には徳島県立近代美術館にて個展「森口ゆたか あなたの心に手をさしのべて」が開催された。美術家としての活動の一方で、1998年にイギリスで出会ったホスピタルアートを日本に紹介し、NPO法人を立ち上げ、メンバーと共にこれまでに数十カ所の病院を手がける。また大学でも「芸術と社会」の観点からホスピタルアートの授業に取り組む。